柔整免許・国家試験

【柔整国家試験】柔道整復師国家試験漏えい事件 まとめ

2022年に発覚し柔整業界としては大きく報道された「柔道整復師国家試験漏えい事件」を出来るだけ分かりやすくまとめてみました。

柔道整復師国家試験漏えい事件とは

柔整業界上層部の柔道整復師が関わり、第30回(2022年)国家試験の出題予定問題が不正に漏えいしたことをきっかけに、関係者への事情聴取・供述書作成・家宅捜索が行われ、漏えい先とされる柔整養成学校4校や業界団体事務所にも捜索が入り、柔道整復師2名が逮捕・有罪判決を受けた事件です。

このページの最後に参考資料として引用した報告書や報道を記載しました。
報告書や報道には実名が記載されていてもここでは個人名は伏せ字としました。

事件相関図

柔道整復師関連団体や報道からの情報を基に簡略的な相関図でまとめました。

事件の時系列

柔道整復師関連団体や報道からの情報を基にかんたんな時系列をまとめました。

略称表記
試験財団 (公益財団法人)柔道整復研修試験財団
整復師会 (公益社団法人)日本柔道整復師会
学校協会 (公益社団法人)全国柔道整復学校協会
国家試験 柔道整復師国家試験

事件の時系列
  • 令和3(2021)
    9月

    K.T.(試験財団試験委員)が国家試験の出題問題最終決定会議にて試験問題の素案の内容を無断で録音

  • 10月

    K.T.が試験問題が確定した際の会議の録音データを勤務先の東京柔道整復専門学校の教員に送り試験問題全250問を漏えい

  • 令和4(2022)
    2月

    K.T.が試験問題の内容をM.H.(試験財団業務執行理事)に漏えい
    M.H.が漏えいした情報および従業員に作らせた模擬問題約30問を仙台医健・スポーツ専門学校の教員に漏えい

  • 3月

    K.T.M.H.が共謀して整復師会関係者に対して実際の試験問題に類似した問題約30問を漏えい
    →この整復師会関係者を介して新宿医療専門学校横浜医療専門学校の幹部ら4人に漏えい

  • 3月6日

    第30回 国家試験 試験実施
    (漏えい問題が多数出題される)


  • 3月23日

    新宿医療専門学校の校長から
    国家試験問題の漏洩を疑う事象が発見された」
    試験財団代表理事宛に連絡

    試験財団は同日のうちに厚生労働省試験免許室に報告

  • 3月24日

    試験財団新宿医療専門学校側に事情聴取
    その結果を同日のうちに厚生労働省試験免許室に報告

  • 3月25日

    第30回 国家試験 合格発表

  • 3月~4月

    3月24日の学校に対する事情聴取の結果、

    整復師会主事が、第29回国家試験(2020)と第30回国家試験(2021)の試験日前の2度にわたり新宿医療専門学校の教員あてに試験問題に酷似した問題集の写真映像をLINEで送る
    これを同教員がPCを使用して文書化→新宿医療専門学校の柔道整復師学科長が試験前の生徒に対する補習教材として使用
    送付された問題は、内容が国家試験の必修の柔道整復理論の問題集と酷似、選択肢の順番もほぼ一致していた

    などが判明、試験問題漏洩が行われた疑いが濃厚となる
    学校協会整復師会試験財団による調査開始

  • 4月~5月

    学校協会整復師会試験財団による関係者への事情聴取・報告受理

  • 5月20日

    試験財団代表理事が厚生労働省に呼ばれ善後策を協議

  • 6月17日

    かねて厚生労働省が相談していた警視庁刑事部捜査二課において厚生労働省の試験免許室3名と法務室4名、 試験財団3名、 警視庁刑事部捜査二課3名によりこれまでの捜査結果を踏まえての協議が行われ、 試験財団から国家試験をめぐる偽計業務妨害の被害届を提出し、事件として立件し捜査を進めることとなる

  • 7月~9月

    警視庁捜査員による試験財団職員に対する事情聴取、 供述調書作成がなされ、9月からは柔道整復理論の各試験委員に対しても事情聴取・供述調書作成

  • 8月30日

    試験財団から警視庁に偽計業務妨害容疑の被害届提出

  • 8月31日

    警視庁M.H.の自宅等に一斉捜索

  • 10月5日

    警視庁が以下2名を柔道整復師法違反(柔道整復師国家試験問題漏洩) 容疑で逮捕
    K.T.(試験財団試験委員)
    M.H.(試験財団業務執行理事)

    同日、警視庁が試験財団事務所を捜索。

  • 10月26日

    K.T.M.H.再逮捕

  • 11月16日

    東京地方検察庁K.T.M.H.柔道整復師法違反で起訴

  • 11月17日

    試験財団K.T.を試験委員から解任

  • 11月29日

    試験財団M.H.業務執行理事から解任

  • 令和5(2023)
    1月12日

    東京地方裁判所第一回公判K.T.M.H.が罪を認め即日結審

  • 2月1日

    判決(控訴せず刑が確定)
    K.T. 懲役1年/執行猶予3年
    M.H. 懲役10月/執行猶予3年

  • 3月5日

    第31回 国家試験 試験実施
    (逮捕前のK.T.が作成に関わった試験問題が全く修正されずそのまま出題される)

  • 令和6(2024)
    10月3日

    厚生労働省がK.T.M.H.に対し3年間の柔道整復師の業務停止命令

有罪判決を受けた関係者

※役職等は逮捕前時点での経歴です

確定した判決

M.H. 懲役10月/執行猶予3年
M接骨院院長(東京都北区)
学校法人滋慶文化学園 仙台医健・スポーツ専門学校 講師
公益財団法人 柔道整復研修試験財団 業務執行理事
公益社団法人 日本柔道整復師会 副会長 兼 総務部長
厚生労働省 社会保障審議会 委員
厚生労働省 柔道整復療養費検討専門委員会 委員

K.T. 懲役1年/執行猶予3年
K接骨院院長(東京都葛飾区)
学校法人杏文学園 東京柔道整復専門学校 講師
公益財団法人 柔道整復研修試験財団 試験委員

確定した行政処分

M.H.およびK.T.の2名
柔道整復師の業務停止 3年間
(2024年10月3日~2026年10月2日、執行又は効力が停止している期間を除く)

国家試験漏えいが明確に認められた学校

学校法人杏文学園 東京柔道整復専門学校
学校法人滋慶学園 仙台医健・スポーツ専門学校
学校法人小倉学園 新宿医療専門学校
学校法人平成医療学園 横浜医療専門学校

関与したが立件されなかった団体・関係者

K.T.から試験問題全250問データを受け取った東京柔道整復専門学校の職員
M.H.から模擬問題約30問を受け取った仙台医健・スポーツ専門学校の職員
・実際の試験問題に類似した問題約30問を聞いた日本柔道整復師会の関係者
・この関係者を介して模擬問題を伝えられた新宿医療専門学校横浜医療専門学校の職員
・漏えいした試験問題を受け取り国家試験対策に悪用した柔整専門学校の教員
M.H.が経営するM接骨院で、漏えい情報を基に模擬問題作成を指示され実行した従業員

国家試験合格率への影響

第30回試験 令和3年(2022)3月実施(関係者逮捕前、漏えい問題が多数出題)
第31回試験 令和4年(2023)3月実施(関係者有罪確定後、問題作成に関係者が関わっていた)

受験生全体の合格率推移

第28回第29回第30回第31回
新卒合格率84.8%85.6%81.0%65.4%

関係した学校別の合格率推移

第28回第29回第30回第31回
東京柔道整復専門学校98.6%100%98.6%66.9%
仙台医健・スポーツ専門学校80.0%77.3%97.3%54.8%
新宿医療専門学校94.0%91.7%92.3%40.0%
横浜医療専門学校75.9%80.4%83.9%60.0%

国家試験・柔道整復師免許への影響

第30回試験 令和3年(2022)3月実施(関係者逮捕前)
漏えい問題が多数出題された事実が認められたにもかかわらず、
・国家試験のやり直しはしない
・漏えいした試験問題を取り消しての再作成はしない
・漏えいした国家試験で合格した受験生はそのまま柔道整復師免許を取得

第31回試験 令和4年(2023)3月実施(関係者有罪確定後)
関係者が作成に関わった疑惑のある問題が出題された可能性があるにもかかわらず、
・試験問題の再作成はしない
・国家試験で合格した受験生はそのまま柔道整復師免許を取得

結果として、国家試験にも柔道整復師免許にも全く影響はありませんでした。

一連の事件捜査で明らかにされなかった疑惑

長年にわたり試験問題漏えいについての疑惑がありつつも放置されていたこと
今回の事件に関係しなかった学校の受験生にまで漏えい情報が拡散されていた疑いがあること
以上が柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会の報告書に記載されています。

「しかし、前記各犯行は氷山の一角で、 同種事犯が長年に繰り返されてきたとも言われている。」

「国家試験問題の漏洩が疑われたため、 試験委員が急きょ改変されて選任された試験委員で試験問題の差し替えの作業を行ったことにより、一部では全体的に設問が例年よりかなり難しかったことも一因といわれている。
しかし、全校の合格率平均が2割近くも下落したということは、上記2校以外の受験生にまで試験問題漏洩情報がかなり拡散していたのではないかと疑わざるを得ないのであった。」

全養成校の半数近くの受験生らに試験問題漏洩情報が拡散されていた可能性は否定し難いところであった。」 

柔道整復師業界においては、国家試験問題漏洩をめぐる疑惑がかなり以前から取りざたされていたにもかかわらず、放置されていたことが強く推認される

「K.T.、MHらの犯行もその前任者からの引継ぎの色合いが濃いもので、犯罪捜査としては証拠の散逸、時間的制約等から遡らなったものの、現実は長年にわたり悪弊が続いていたとみられ、 実態は深刻である。」

柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会報告書より引用 https://zaijusei.com/doc/2023_kokkashiken_saihatsuboushioonkai_houkokusho.pdf

参考資料

東京地方裁判所 令和4特(わ)2373  柔道整復師法違反
2023年2月1日
裁判所
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=92016

柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会 報告書
2023年6月27日
公益財団法人柔道整復研修試験財団
https://zaijusei.com/doc/2023_kokkashiken_saihatsuboushioonkai_houkokusho.pdf

柔道整復師法8条1項に基づく業務停止処分に関する件
2024年10月3日
厚生労働省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000971330.pdf

柔道整復師試験、数十問分「キーワード」漏らしたか 財団理事ら逮捕
2022年10月5日
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQB56D5KQB5UTIL02F.html

柔道整復師試験、会議無断で録音…漏えい容疑の男
2022年10月6日
読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221006-OYT1T50188/

仙台市の専門学校を家宅捜索 柔道整復師の国家試験問題流出事件で
2022年10月8日
朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQB83QHSQB8UTIL008.html

柔整師試験事件で理事らを再逮捕 東京の専門学校などに漏えい疑い
2022年10月26日
毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20221026/k00/00m/040/203000c

別の3校にも情報提供か 理事ら再逮捕へ 柔道整復師試験漏洩
2022年10月26日
産経新聞
https://www.sankei.com/article/20221026-C2V75ZNBVZNRLEJNO2VWROFBMQ/

公益財団法人の元理事ら2人に執行猶予付きの有罪判決 東京地裁
2023年2月1日
TBSテレビ
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/306457

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